Tuesday, April 12



S O M E W H E R E

胸がいっぱい
次から次からたくさん思い出した
あのひとは、凄いひとだった
何でも出来た
まるで楽器の様な上手な口笛に、大きな音の指笛
二つの手のひらでいつでもどこでも踊る様にリズムを刻んでた
ギターも弾けて、唄も上手だった
録音したテープはお母さんが持っていた
気さくで何でも話すから
人を喜ばせるのが得意だった
厳しくて一生懸命やりなさいとよく叱られた
お姉ちゃんなんだから優しくしなさいと叱られた
お母さんやおばあちゃんを大事にしなさいというのが口癖だった
それを言われるのが何となく嫌だった

アメリカ映画が好きだったと思う
食べ物や料理の事に詳しくて
一度の食事にテーブルの上が豪快だった
ここが一番美味しいところだと教えてくれた
夜更かしをさせてくれて
一緒にゲームをするのが好きだった
わたしたちのためにとても大きなプラレールを組み立てて行った
何をやっても上手だった
一年に何度か帰って来る時、とても緊張した
また帰ってゆく時、とてつもなく切なくなった
かわいそうと思った
帰り際は決まって頭を撫でて
"ほっぺにチュウして"と言った
そしてまた頭を撫でると"じゃあ、またね"と言った
何とも言えない表情にいつも泣くのをこらえてた
泣いたら恥ずかしいと思ってた
ブォンブォンというスポーツカーで帰って行った
見るに高そうなシルバーの
シートのおしりの所がまあるく凹んでいて楽しかった
山の中の長い直線ではすごいすごいスピードで楽しませてくれた
あの車には酔ったけど、幸せだった
すねているわたしに最後の最後はいつも優しくて
散歩をしてタイムカプセルを埋めたりした
絶対忘れないで、大人になったら開けようといってたけど
どこに埋めたのか、もう分からない
手を繋いで眠った
とても安心する手だった
でも少し、緊張してた

志村けんのマネをよくしていた
おどけてみせるユニークなひとだった
聞きたくないようなことが心に残っても
お父さんだった。
大好きじゃなかったことなんて今まで一度もない
そんなこと知ってるかな
お父さんにとってはもうきっと
大人になってしまったのだと思う
わたしは出来事に、たいがい平気で過ごしていたのに
劇場で涙が止まらなくて
とてもたまらなかった
駅までの道のりもずっと

もうすぐ来るお父さんの誕生日
"おめでとう"ってメールしよう


映画SOMEWHEREに
感謝の気持ちを込めて